オフサイド
荒立てた呼吸を鎮めようと、玄関の前で大きく深呼吸した私は、意を決してドアを開けた――。
「ただいま」
呟くような声だったけれど、ガチャという物音に気付いたお母さんがリビングからやってきた。
「お帰り!
あら、なんか暗い顔してるけど、何かあった?」
「えっ、ううん。何もないよ」
「そう?それならいいけど。今日はお店、混んでたの?」
「えっ、なんで?」
「なんで?って、いつもより帰りが遅いからよ。珍しいじゃない、こんな時間まで」
「あっ、ほら今日はJリーグの試合があるでしょ?だから遠方からのお客さんが多くて…。みんなユニフォーム着たお客さんばかりでさぁ、次から次へと来るからレジが間に合わなくて手伝ってきたんだ」
「そう。お疲れさま」
「うん、ほんと疲れた。ちょっと休むわ」
嘘がバレやしないかと、ヒヤヒヤしながら二階へ通じる階段を上がった。