太陽が見てるから
たぶん、おれが変わったわけでもない。

ただ、おれ達は、最高のチームメイトから最高のライバルになっただけた。

目指している地は、おれも健吾も、修司も同じだ。

今は無理だけど、直ぐにはもっと無理だけれど、いつの日か修司の広い背中に追い付いてやる。

追い付くだけじゃ満足できそうにないから、追い越してやる。

この先に幾つも列をなして待ち構えているだろうハードルを、おれなりに1つずつ制覇してやるつもりだ。

来年の夏までに、必ず。









「補欠! 腹減った……」

何十球も打ち返した後、はらぺこフランス人形は項垂れておれの背中におぶさってきた。

「腹減った。イラつく」

胃袋が空っぽになった時の翠は分かりやすい。

機嫌が悪くなる。

意味もなく八つ当たりしてきたり、無性に無口になったり口数が減る。

大概は、顔付きで分かる。

「分かったから、下りろ」

「無理。あたし、腹減ると歩けないんだよね。運んでくれ」

「はあ……ラーメン食いに行くか」

「そうしてくれ」

「ったく……」

おれは大きな溜息を吐きながら、翠を背負ったままバッティングセンターを後にした。

自転車で飛ばして、バッティングセンターの近くにあるラーメン屋に到着するや否や、翠は自転車を飛び下りて走り出した。

腹が減ると歩けない、そう言ってたくせに。

レトロなデザインのパンプスをカツカツ鳴らして。

「あたし、塩バターコーンと餃子!」

「……歩けないって言ってなかったっけ?」

ぶつぶつ言いながらのれんを潜ると、ちょうど昼時だったためか店内はやけに混み合っていた。

でも、運良く空いていたカウンター席に翠は飛び乗るように座り、威勢のいい声で注文をした。

「おっさん! 塩バターコーン2つと餃子2枚!」

その声に、周りに居たお客さん達が振り向いてクスクス笑っている。

頭に白いタオルを巻いた中年のおじさんは、厨房の中で麺をザルでシャキシャキ切りながら、これまた威勢のいい声で答えた。


鼻の下に立派な髭を生やして、目尻に何本もの皺ができている。


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