太陽が見てるから
「はいよ。塩バターコーン2つと餃子2枚ね! お姉ちゃん、元気だねえ」

額に一粒の汗を貼り付けて、おじさんは豪快に笑った。

「もー、元気元気! てか、早くして! あたし、腹減ると生命力維持できないの」

翠とおじさんの会話に、周りのお客さんが箸を止めて笑った。

おれは笑いの絶えない通路を小さくなって通り、翠の隣に座った。

翠は甘い香りを漂わせて、フンフンと鼻歌を奏でていた。

「おれ、味噌ラーメン食いたかったのに。何で勝手に注文しちゃうんだよ」

チャーシューと葱がたっぷり乗っかった、香ばしい香りただよう味噌ラーメンが食いたかったのに。

おれが少しいじけていると、翠はおれの背中をバシバシ叩いて豪快に笑った。

「男がチンケな事言うなよ! 塩ラーメンうまいんだから」

「いや、分かるけどさ」

それから10分も待たないうちに、塩ラーメンと餃子が目の前に登場し、翠は目を輝かせた。

ダークグリーン色の瞳を。

「いただきまーす」

確かに、腹が減っていたのは事実だ。

でも、箸が思うように進まないのは、翠に釘付けになってしまったからだ。

塩バターコーンラーメンは、文句一つなく本当にうまかったけど。

でも、翠の食いっぷりには完敗だった。

塩バターコーンラーメンを間食し、れんげは一切使用せずどんぶりに口をつけてスープをイッキ飲み。

餃子も見事に食べつくし、それでも翠はおれの餃子にまで箸をのばした。

「補欠、この餃子2つだけくれ」

「ああ、うん。食いな」

「シェイシェ!」

おれのラーメンはビヨンビヨンに伸びてしまって、可哀想だった。

右隣に座っていた年配のご夫婦や、ラーメン屋の店員さん達まで、翠の食いっぶりに釘付けになっていた。

この細っこい体のどこに、こんな量がするする入って行くんだろうか。

翠の胃袋はきっとブラックホールに違いないな、とおれは笑わずにはいられなかった。

年配のご夫婦には、元気な彼女さんだね、なんて言われたりもした。

確かに、翠は食いっぷりまで豪快だった。



< 113 / 443 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop