太陽が見てるから
「なあ、健吾」

「んあ?」

「あの男、何者?」

と不機嫌極まりない声を出すと、健吾はおれを引っ張って廊下に飛び出した。

背が高い。

襟足の長い茶髪。

両耳にピアスを2つずつ。

いかにも女馴れしていそうな男と、翠は楽しそうに笑っていた。

おれが声を掛けても気付かないくらい、盛り上がっていた。

ぎゃあぎゃあ騒いで。

「響也、まあ、落ち着きなさいな」

廊下の壁に寄りかかりながら、健吾が言った。

「落ち着いてるし」

確かに落ち着いてはいたけど、おれは焦りにも似た感情を健吾にぶつけた。

「クラスメイトなのは分かるけどさ、何あれ。あの男、翠にベタベタしすぎだろ」

まあまあ、と健吾は笑いながらおれの肩をぽんぽん叩き続けた。

休み時間の廊下がいつになく喧しく感じて、ますますイライラする。

「大丈夫だって。蓮(れん)っていいんだけどさ、あいつ、ちゃんと女居るから。翠だって、響也一筋だって」

「けど、あれは異常だぞ! 見たか? 顔、近い近い!」

とおれは言い、今さっき見た翠と蓮くらい近く、健吾に顔を接近させた。

健吾はギャハギャハと笑って、今度はおれの頭を叩いた。

「何だ何だ、響也! やきもちか」

「そんなんじゃねえよ」

でも、それは大嘘だった。

やきもちなんかよりも、もっと焼けた焦げ焦げ真っ黒焦げの気持ちだった。

苦い苦い、焦げ焦げの。

クラスが離れて初めて気付いたおれは、馬鹿だ。

翠がいかに大切なのか、痛いほど思い知らされていた。

授業開始のチャイムが鳴って、教室に戻るや否や、おれはむしゃくしゃした気持ちを罪の無い健吾の漢和辞典にぶつけた。

殺風景な机の上に漢和辞典を叩きつけ、大きな溜息を床に落とし、机の脚をガンッと蹴っ飛ばした。

両隣のガリ勉が参考書を見つめながら、体をビクつかせた。

翠と蓮のあの光景が残像と化し、頭にこびりついて剥がれてくれない。

E組を覗くと、いつも同じ目に合う。

不貞腐れていると、胸ポケットで携帯電話がブルブル震えた。




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