太陽が見てるから
すごく安心しきった笑顔をしている。

入院、手術。

そう言って笑うなんて、おれには理解しがたいものだった。

不思議でならなかった。

その後、さえちゃんが訳の分からない医学的な専門用語を並べるものだから、おれも健吾もさすがに頭が混乱した。

循環動態、呼吸器の維持と改善。

血圧や血糖値のコントロールだとか。

とにかく、手術に向けて翠は体調管理の毎日をしばらくの間、この大学病院で送るらしい。

「響ちゃん、健吾くん」





吉田 翠





ちょっと右上がりで下手くそな字で書かれたプレートが貼りつけられている、8階、803号室の前でさえちゃんが突然笑った。

「ここ、翠の病室なんだけどさ。2人ともびっくりしないでよ」

通りすがりの看護師さんや入院患者さん達が、いぶかしげに振り返ってしまうほど、さえちゃんは笑った。

本当にびっくりしてひっくり返るなよ、とさえちゃんがもう一度念を押したその理由を知ったのは、このすぐ後の事だった。

本当に驚かずにはいられなかった。

6畳半ほどの少し狭い個室。

壁紙は新しいけど、錆びた年季入りのベッドがあって、小さい洗面台もついていた。

でも、それに驚いたわけではない。

おれは嬉しくなった。

開け放たれた窓の向こうには、小さくだけどおれたちの学舎が見えていたからだ。

窓の縁に脱け殻になった翠の制服がハンガーに掛けられて、微かに揺れていた。

でも、驚いたのはそんな事でもなかった。

「ちっきしょう」

この病室の元気な患者に、おれと健吾は驚きを隠せなかったのだ。

「何なの、これ! これじゃ、ねずみ男じゃん。ださっ」

病室の入り口に立っているおれ達に気付く様子はなく、ぶつぶつぶつぶつと翠は小言を呪文のように唱えていた。

ださい、ださい、と。

金色の髪の毛を少し乱れさせて、薄いピンク色の病衣はポンチョのよいに見えた。

「もっと可愛い寝間着は無いのかね! ださっ、ださっ」

不機嫌にそう言って、苛立っている翠がいつもの翠過ぎて、呆気にとられてしまった。



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