太陽が見てるから
「あのー。野暮な事をお訊ねしますけんども……翠さん。あんた、病人だすよね?」

さっき、翠の血が逆流しているのを見た時は半分白目を剥いていて、今にもひっくり返りそうになっていたくせに。

「病人には見えんな。何病だ? 狂暴病か?」

健吾は本当に野暮な事をお訊ねしてきた。

すると、翠はどんぐり眼をメデュウサのように冷たく尖らせて、薄手の毛布を体から剥ぎ取りベッドの上に立ち上がった。

「健吾! てんめえー! まじぶっ殺す! ちょっとこっち来いや」

「ギャー、翠!」

「離して、お母さん」

「翠! 落ち着け」

怒りだした翠を必死に押さえつけたのは、おれと真っ青になったさえちゃんだった。

「離せ! こら、健吾! 来い、ぶっ殺してやる」

「行くか、バカッ! 早く退院しろ」

「何だと?」

「そんなに元気なら入院費無駄だろ」

「こんにゃろー! 健吾!」

翠はギャースカギャースカ怒鳴り、暴れ、健吾はげらげら笑い、これじゃ病室もへったくれもない。

無法地帯のサバンナだ。

「キャー! 何してるんですか! ここは病院ですよ」

案の定、サバンナと化した803号室には、看護師さんの怒りの稲妻が落とされた。

ようやく落ち着いた頃、さえちゃんと健吾はおれと翠に気を使ってくれて、売店に飲み物を買いに行った。

2人で話したい事もあるだろうから、と。

2人きりになったとたんに、翠が先に話し始めた。

「ごめん、補欠。びっくりしたろ? すまんなあ、でも、大丈夫だから」

翠は看護師さんからこってり絞られ、反省したのかちゃんとベッドに横になった。

おれは翠の枕元の横にパイプ椅子を運んで、座った。

足元にはおれのスポーツバッグと、翠の通学鞄がぴったり並んで寄り添っていた。

「びっくりしたとかそんな問題じゃねえよ。何で隠してた?」

おれが訊くと、翠の青白い頬に少しだけ赤みがさして安心できた。

「だって。エースか万年補欠か。それがかかってる大事な時期に言える馬鹿がどこに居るってのよ」

翠は不貞腐れた口調で言い、窓の外の濡れた街並みに目を落とした。

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