太陽が見てるから
不貞腐れているわりに相も変わらずきれいな瞳を、翠はしている。

真っ直ぐで、凛とした瞳。

おれはやるせない気持ちでいっぱいになり、何かを言い返す事すらできずに背中を丸めた。

猫背とかそういう可愛らしい感じじゃなくて、痛いところを突かれたダンゴムシのように。

突然、翠が明るい声でおれの名前を口にした。

響也、と。

「ねえねえねえ! そんな事よりさあ、あたしの鞄開いてみな」

おれは言われたように足元にある翠の鞄を取り、太股の上に乗せて開いた。

固まるおれの横で、翠がクスクス笑った。

このデイジーのような笑顔が、おれは好きだ。

大好きだ。

「すごいだろ! これさあ、103個あるんだぞ」

と翠は言い、鞄の中に細い手をにょっと伸ばした。

そして、その大量の中の一つを手にとり、天井に掲げた。

おれは翠の鞄の中から目を離すことができなかった。

「今年の春の選抜始まった頃から、毎日、寝る前に一羽ずつ折ってたんだよね」

「これ、毎日?」

「まあね。でも、まあ、忘れた日もあったから103個なんだけどさ」

と言いながら翠はクスクス笑った。

すげえ。

翠の鞄の中は濃い緑色の紙で折られた鶴が、ところ狭しと詰まっていた。

通勤ラッシュの電車の中のように、ぎゅうぎゅうに詰まっている。

携帯電話、プリクラ手帳。

財布、化粧ポーチ。

それら以外には何もなくて、深く濃い緑色の折鶴が鞄の中をぎっしりと埋め尽くしていた。

折れ曲がったやつもあるし、絡まったやつも居た。

深く濃い緑色に、目が冴えた。

「何で? 千羽鶴でも折ってたのか?」

おれが訊くと、翠は照れ臭そうに笑って教えてくれた。

あたしの柄じゃないんだけどさ、と。

「毎日、一羽ずつ折って願掛けしてたのさ。補欠がエースになれるように」

「え……」

「でも、あたし可愛い入れ物とか持ってないし。鞄に突っ込んでたら溜まっちゃった」

ふと、顔を上げると窓の外を濡らしていた雨が上がっている事に気付いた。

「あんたがエースになれたのは、あたしのおかげね。感謝しろ」


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