太陽が見てるから
窓の外で七色の橋が架かりそうな不思議な雲が浮かんでいるのが見えた。

灰色なのに、縁が金色に輝いている。

「何で緑色ばっかなんだよ。ほら、赤とか青とか。折り紙にも色々あるだろ」

雨は上がっているっていうのに、おれは泣きそうだ。

「だって、あたしの名前はミドリだもん! だから、緑色」

流行の最先端を行く黒魔術よ、と翠は言い、緑色の一羽の鶴をぽーんと投げて羽ばたかせた。

緑色。

いや、翠色の折鶴が空中で小さな弧を描き、翠の体を覆っていた薄手の毛布の上に静かに下り立った。

その瞬間、目頭がぐっと熱くなって、おれはとっさにうつ向いた。

込み上げるモノを押さえきれなくなったのだ。

でも、声を押し殺して泣いた。

翠の左手を両手で握り締めて、泣いた。

「翠、ごめん。何も分かってやれてなくて」

「補欠のくせに泣くな」

ヒャハハハ、と翠は笑った。

「笑うな、翠」

「え! 何でさ!」

「何で……辛い時も無理して笑うんだよ」

幸せや喜びは2人で触れて、2倍にしたい。

辛い事や悲しい日は、2人で割ればその痛みを半減できる。

「そうやって笑ってばっかだから、いつ本当に辛いのか分かんねえよ」

辛い時は辛いと言って欲しい。

苦しい時こそ、我慢せずに泣いて欲しい。

おれは翠の手をもっと強く握った。

「あたし、別に辛くないし。だから泣く必要もないしね。補欠が居ればそれで……いい」

「嘘つけ! じゃあ、何で泣いてんだよ」

翠は太陽よりも明るい笑顔をしているのに、泣いていた。

「これは鼻水だ! 立派な鼻水だ」

「アホ! 目から鼻水流すやつがどこに居るんだよ」

「よく見ろ! ここに居るだろうが」

翠の泣き顔に目を落とし、しばらく睨み合ったあと、2人で笑った。

げらげらと腹の底から大笑いして、泣いた。

翠がおれの左手をきつく握り返してきた。

泣き腫らした目をして、得意の我が儘を言った。

「補欠! 明日から朝と夜、毎日あたしに会いにきな」

愛しの翠が待ってるんだから来るよね、と翠は鼻先で笑った。

生意気そうに。



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