太陽が見てるから

春の選抜予選

朝が涼しくなった。

とろとろとした緩いまどろみの中でおれはその音を聞き、目を覚ました。

ゴツ、という鈍い音。

続けてもうひとつおまけにゴツ、という音も。

「やべえ。窓、開けっ放しで寝たんだな」

窓辺に並べて置いてあった2つの白球が、朝の秋風に押されてフローリングの床に落ちゴロゴロ転がっていた。

水色のカーテンがつめたい風にふわふわ揺れていた。

まるで、パープの音色のようにきれいに揺れていた。

昨晩、あまりにも月がきれいで窓を開け放ったまま、おれは眠りに落ちてしまったらしい。

秋の新鮮な空気が、この部屋いっぱいに充満していた。

「相澤先輩、本間先輩、すいません」

おれは転がるボールに笑いながら謝り、それを拾い上げてまた窓辺に並べた。

2つのボールに朝の爽やかな白い陽光が一筋の光となって射し込んでいる。

午前6時。

目覚まし時計が豪快に鳴り響き、慌ててそれを止めた。

前日からベッドの枕元によういしていたそれらを、おれは緊張しながら身に付け始めた。

黒いスライディングパンツを履き、長袖のアンダーシャツを着込んで、一息をついた。

「やべえ。緊張してきた」

9月15日。

ついに初陣の日を迎えた。

今日から約1週間、おれ達は春の甲子園をかけて、白球を奪い合う。

練習用のユニフォームとは全く違う感触の白いユニフォームに、足を通し、腕を通した。

黒いエナメル質のベルトをカチャカチャと鳴らしながら締める。

もう逃げ出す事はできない事に気付き、おれは全身を映す鏡の前に立った。

ぞくぞくした。

夢にまで見ていたこの数字をおれは今、たしかに背負っていた。



試合用のキャップのツバ先を両手でぐにゃりと折り曲げ、震える手で深めに被った。

鏡に映るおれは、戦闘態勢が整った顔をしていた。

エナメル質の黒いスポーツバッグに、昨日丹念に磨いたグローブとスパイクを詰め込み、肩から掛けて部屋を出た。

階段を1段ずつ踏み締めながら下りて行くと、母さんが弁当箱を抱えて玄関先に座っていた。

「おはよう」




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