太陽が見てるから
隣の病室、ナースステーション。
トイレ、選択場、洗面所。
さらにあらゆる病室に駆け込んで逃げ回る翠を捕まえるのは、本当に苦労した。
8階から7階の間にある非常階段の踊り場でようやく捕獲した時、翠は半べそになって言った。
「髪の毛が短くなっても、補欠はあたしを嫌いにならない?」
翠を抱き締めながら、おれは可笑しくてたまらなかった。
可笑しくて、可笑しくて。
でも、いとおしかった。
げらげら笑ったのは、久しぶりの事だった。
当たり前だろ、とおれが答えると、翠は今で逃げ回っていたことなどまるで嘘だったように、
「あら、そう? じゃあバッサリ切るわ」
なんて、ケロッとして病室に戻った。
可笑しくて、可笑しくて、可愛いくてたまらなかった。
ショートヘアーになった翠は少し大人びて、また少し可愛くなった。
「補欠、勝っても負けても、ちゃんと報告に来なさいよ」
朝一番の翠の笑顔は、この秋の空によく映えた。
きれいだった。
「分かってる。翠も手術頑張れよ」
と言うと、翠はぽかんとした顔をして、おれを見つめた。
埴輪だ。
でも、フランス製の埴輪。
「何で? 頑張るのはあたしじゃなくて、お医者様だし」
それより腹減った、と翠はぐったりと横になって、ぺったんこで空っぽのお腹を可哀想に撫でた。
「補欠。あたしが復活したら飯おごって。たこ焼きとピザと、ラーメンとオムライスと、アイスクリームと……」
翠は天井を見つめながら細い指を食べたい物の数だけ、次々に折り畳んでいく。
さえちゃんは呆れた顔をして、クスクス笑っていた。
「はいはいはい! 分かった、分かった。全部食わしてやるよ」
「ヒャッホー! パラダーイス」
飛び起きて右手でガッツポーズを決めた翠は、これから手術をする患者とは思えないほど元気だ。
「じゃあ、9時から開会式だから。おれ、そろそろ行くな」
選抜の県予選は、県内4つの球場を使って行われる。
トイレ、選択場、洗面所。
さらにあらゆる病室に駆け込んで逃げ回る翠を捕まえるのは、本当に苦労した。
8階から7階の間にある非常階段の踊り場でようやく捕獲した時、翠は半べそになって言った。
「髪の毛が短くなっても、補欠はあたしを嫌いにならない?」
翠を抱き締めながら、おれは可笑しくてたまらなかった。
可笑しくて、可笑しくて。
でも、いとおしかった。
げらげら笑ったのは、久しぶりの事だった。
当たり前だろ、とおれが答えると、翠は今で逃げ回っていたことなどまるで嘘だったように、
「あら、そう? じゃあバッサリ切るわ」
なんて、ケロッとして病室に戻った。
可笑しくて、可笑しくて、可愛いくてたまらなかった。
ショートヘアーになった翠は少し大人びて、また少し可愛くなった。
「補欠、勝っても負けても、ちゃんと報告に来なさいよ」
朝一番の翠の笑顔は、この秋の空によく映えた。
きれいだった。
「分かってる。翠も手術頑張れよ」
と言うと、翠はぽかんとした顔をして、おれを見つめた。
埴輪だ。
でも、フランス製の埴輪。
「何で? 頑張るのはあたしじゃなくて、お医者様だし」
それより腹減った、と翠はぐったりと横になって、ぺったんこで空っぽのお腹を可哀想に撫でた。
「補欠。あたしが復活したら飯おごって。たこ焼きとピザと、ラーメンとオムライスと、アイスクリームと……」
翠は天井を見つめながら細い指を食べたい物の数だけ、次々に折り畳んでいく。
さえちゃんは呆れた顔をして、クスクス笑っていた。
「はいはいはい! 分かった、分かった。全部食わしてやるよ」
「ヒャッホー! パラダーイス」
飛び起きて右手でガッツポーズを決めた翠は、これから手術をする患者とは思えないほど元気だ。
「じゃあ、9時から開会式だから。おれ、そろそろ行くな」
選抜の県予選は、県内4つの球場を使って行われる。