太陽が見てるから
今日の練習休みを伝えられたのは、本日朝5時の野球部連絡網だった。


健吾から、連絡が回ってきた。


おれは次のイガに連絡網を回したけれど、当の本人はまだ夢の中だったらしく、イガの母さんが受けてくれた。


部活が休みになった事をメールで知らせると、翠は、じゃあ、これから行く、とメールを返信してきたのだった。


それは朝7時40分のことで、翠は本当に8時ころにやってきた。


父さんと母さんと翠が団らんしている横で、おれは二度寝に入る寸前のまどろみの中をさ迷っていた。


睡魔を誘ったのは翠の笑い声と、窓の隙間から迷い込んで来る霧雨の静かな音だった。


アスファルトが水に濡れた匂いは、なんだか生臭い。


けれど、クラシック調にも似た雨の音色と、ソファーのやわらかさのおかげで、おれはひどく心地が良かった。


「大変! 卵が無い!」


瞼が重くなり、そっと閉じた時、母さんの声で完全に現実に引き戻された。


「これじゃ、ハムエッグ作れないわ……響也!」


眠りを妨げられたので、少し不機嫌な声でおれは返事をした。


嫌な予感というものは、たいてい大当たりするものだ。


「何? まさか、買ってこいとか言う気?」


完璧なしかめっ面をしてソファーに体を沈ませると、母さんは財布を手にしておれの横に来た。


「雨だし、頼むわ。スーパーで卵1パック」


「勘弁してよ」


「けちくさい事言わないでよ」


母さんの財布には小さな鈴が付いていて、チリンチリンと音を立てて揺れていた。


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