太陽が見てるから
「あ、そうだ。ついでだから、踏切のとこのケーキ屋で、チョコレートケーキ4つ買って来てちょうだい」


「はあ? なんで増やすんだよ」


踏切の真横には菜の花畑があって、その隣に小さなロッヂのようなケーキ屋がある。


高校の近くで、母さんも翠も、そこのチョコレートケーキが大好きだ。


「無理無理。父さん、車で行って来てよ。その方が早いって」


絶対無理、と口酸っぱく何度も抵抗していると、翠がドシドシと音を立てて、フローリングを突き進んできた。


「おい、補欠!」


「うわっ! 何するんだよ」


翠は、ソファーからおれを剥ぎ取り、胸ぐらを掴むと、額と額をびったりと合わせて睨み付けてきた。


長い、睫毛だ。


「貴司は、これからあたしとオセロやるの」


「はあ?」


アプリコットのような翠の香りに、くらくらした。


「洋子は、あたしと冬ソナ観るから忙しいの!」


「はあっ?」


「補欠は暇じゃんか! 行ってきな」


「は……?」


「卵とケーキ、とっとと買ってこい!」


頼もしい翠の後ろで、父さんと母さんはゲラゲラと笑っている。


「何でいつもこうなるんだよ」


と文句をたれつつも、翠の迫力に完敗し、


「行ってきます」


と言ってしまった以上、撤回などできない。


母さんから3000円を預り、傘をさして自転車に飛び乗った。


「補欠ー! バイビー!」



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