太陽が見てるから
振り向いて文句を一発かましてやろう。


そう思ったけれど、おれにはできなかった。


「翠」


「なに?」


「お前、寝不足?」


急に、心配になったからだ。


「はあ? 全然。超寝たから、絶好調!」


「あ、そう」


それなら、いいんだけど。


でも、おれは不安になった。


翠の顔色が、あまり良い色だとは言えなかったからだ。


「早く行ってきな、補欠」


「あ……うん。じゃあ、行って来る」


翠に見送られ、おれは優しい雨の中を自転車で走り出した。


もう、ソメイヨシノは散りかけていて、濡れた道路を白く染めていた。


葉桜になりつつあるソメイヨシノは霧雨に濡れていて、でも、綺麗だった。


スーパーに到着し、10個入りで1パック88円のタイムセールの卵を購入し、高校方面へ向かって線路沿いを走っていると、電車に追い越された。


シルバー色の2輌編制の電車の窓は、湿気で白く曇っていた。


ガタガタガタ、と激しい騒音を出して走り去る電車は、日曜日ということもあり、がらがらに空いているように見えた。


もしかしたら、今日は1日、ゆったりとした雨降りの、久しぶりの楽しい休日になるかもしれない。


翠が居るから。


カンカンカンカン。


踏み切りの棒がゆっくりと下り、またもや次の電車がおれの横を通過した。





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