太陽が見てるから
おれは父さんを睨み付け、その手を叩き、一目散に自分の部屋に駆け込んだ。


「ちきしょう! 何でだよ」


携帯電話とグローブを持ち、おれは再び家を飛び出した。


自転車に飛び乗ったおれを、父さんが呼び止めた。


「響也!」


「何だよ」


「どこに行く気だ」


「うるせえ! ほっとけや!」


おれはイカれたように怒鳴り散らし、叫んで、傘もささずに自転車を走らせた。


自転車を加速させながら、無意識に電話をかけていた。


ちくしょう。


景色なんて、もう無くなった。


ソメイヨシノの淡いピンク色も、葉桜の目が冴える抹茶色も。


全部が白黒になって見える。


トゥルルル、と一般的な呼び出しコールを3、4回きいたあと、1番信用しているあいつの声に、ひどく安心した。


『おう、響也。休みに電話してくるなんて、珍しいな』



そう言った健吾の後ろで、さっきおれの家のリビングでも流れていた同じワイドショーの音声がした。


「健吾」


『どうした?』


「今、暇?」


『暇だわー。練習が休みだとやる事ねえよ』


なんて最高のタイミングだろうか。


「じゃあ、今からグラウンド来いよ」


『はあ? 今日、練習休みだぜ。つうか、雨が』


健吾の言いたい事は、分かっている。


この雨降りなのにグラウンドか? 、と健吾は笑い飛ばす気が満々なのだろう。


でも、それを聞かずに、おれは怒鳴っていた。


「いいから来いよ!」


もう、冷静ではいられなかった。


「ブルペンで待ってる。絶対来い! 来るまで待ってるからな」


そして、一方的に電話を切って、電源もオフにした。



< 190 / 443 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop