太陽が見てるから
健吾の自転車は、おれの自転車よりもかなり年季入りで、17歳の男2人を乗せるには気の毒過ぎた。


さぞかし、重かろう。


空が狭い。


翠も、毎日、毎朝、おれの自転車の後ろに座って、こんな空を見ていたのだろうか。


「響也、南台大学病院でいいのか?」


ギイ、ギイ、と鈍い音を鳴らしながら、健吾はペダルを踏み続けた。


「分かんね……確かめる前に、家とび出してたから」


「はあ? まじで使えねえやつ!」


「ごめん」


「とにかく、行ってみるしかねえな」


父さんやさえちゃんに連絡をとろうにも、携帯電話はおれのポケットの中で命を失っていた。


雨の中、びしょびしょに濡れたせいで壊れてしまったのだ。


健吾が自転車を加速させながら、叫んだ。


「こんちきしょー! やっぱ、男の2人乗りはきっついなあ! なあ、響也!」


今にも息絶えそうなほどに息を切らして、それでも健吾は懸命にペダルを踏み続けた。


南台大学病院に、ひた走らせた。


雨上がりの海辺のこの街は潮の香りが流れていて、爽やかだった。


街路樹の木の葉には水滴が付いていて、朝露のようにみずみずしい。


「健吾」


「ああん?」


自転車を飛ばし続ける健吾のびしょ濡れの背中に、おれは言った。


でっかい背中に。


「やっぱ、おれの相方はお前しかいねえよな」


中学1年生の春。


野球部に入部初日に、おれは投手というポジションを貰い、健吾とバッテリーを組むことになった。



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