太陽が見てるから
7月18日。


翠の手術前日の夜も、おれは練習を終えたその足で病院へ向かった。


南台大学病院は、昔からの古い建物だったためか、日中でも薄気味悪いほど細々としていたのを覚えている。


でも、この西中央総合病院は、まだ10年ほどしか経っていないためか、夜でも明るい。


中庭に大きな花壇があるし、病室の窓も透き通っていてパノラマのようにでかい。


「何か食わせろー!」


その耳をつんざくような甲高い声に、ハッとした。


病棟の廊下を突き抜けるこの声は、翠だとすぐに分かった。


「なんだ? また騒いでやがる」


スポーツバッグを背負い、病室に入って行くと、翠は担当の看護師さんに文句をたれていた。


「まじ限界! 若い女が腹空かせてんのよ! 食わせろー!」


薄い掛け布団を細い指で握り締め、翠は切実な瞳で看護師さんを睨んでいた。


「腹へったー! ラーメン大盛り!」


「だめったら、だめ! 明日、手術なのよ!」


担当の看護師さんは翠ととても仲良しで、まだ独身の可愛らしい愛嬌たっぷりの人だ。


「翠ちゃんみたいな手のかかる患者さんは、滅多にいないわよ」


「いやーん! 鈴木っちのいけず! そんなんじゃ、嫁に行けないぜー!」


アハハン、と翠が鼻で笑うと、看護師の鈴木さんは、ムッとしながらもすぐに笑った。


「何さ。翠ちゃんみたいにわがままだと、せっかく彼氏が居てもすぐに振られちゃうんだから」


フフン、と負けず劣らず、鈴木さんもなかなか手強い女だと思う。


翠と鈴木さんは、昔馴染みの友達のように、いつもこんな感じで言い合っている。


「鈴木っち! そりゃあ聞き捨てならんね!」



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