太陽が見てるから
「待てよ! 岸野!」


岸野の跡を追い掛ける健吾が、突然立ち止まり、おれに言った。


「おれもだよ」


「え?」


「おれも、響也抜きの南高なんか想像つかねえよ!」


お前と一緒に甲子園目指してえよ、と健吾は目に涙を溜めて、病院を飛び出して行った。


おれはその場に立ち尽くして、動けなかった。


「夏井」


監督が、おれの腕を掴んだ。


「最高のチームだと思わんか?」


「え?」


「こんな夜中に駆け付けてきて、お前の左腕に惚れてると遠回しに言うような仲間は、そうそう居ない」


あいつらは、お前が必要だと言ったんだぞ、そう言って、監督は笑った。


「けど……こんな状態じゃ、たぶん、まともに投げれないっす」


「そうか。夏井らしいな」


「怒らないんですか」


初めて目にした監督の穏やかな表情に、おれは拍子抜けした。


「怒ったら、お前は明日、マウンドに立ってくれるのか?」


それなら、喜んで怒るんだがな、そう言って、監督は笑った。


「いや、それは……」


「まあ、いい。夏井の気持ちは分からんでもない。でも、よく考えなさい。どうするのが、夏井と彼女に一番いいのか」


「え?」


「お前の頭なら、それくらいの答えは出せるだろう」


そう言って、監督はおれの額をコツンと叩いた。


コツンと叩かれて、ボタンを押されたように涙があふれた。


「監督……迷惑かけて、すいません」


しばらく泣いていると、さえちゃんが慌てた様子でロビーにやってきた。


「響ちゃん、監督さん」


「さえちゃん」


「ああ、どうも。お騒がせしてすみませんね」


と監督が頭をさげると、さえちゃんもぺこりと頭を下げて、おれの腕を引っ張った。


「翠の手が動いたの。目を開けたりはしないんだけど、手が動いたのよ」



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