太陽が見てるから
「まじかよ!」


「まじだよ!」


おれは大急ぎでICU室へ走った。


さえちゃんも、監督も。


ICU室のガラス窓から覗いてみると、翠はさっきと変わらない表情で眠っていた。


さえちゃんが、おれの肩をポンと叩いた。


「甲子園、連れてったげて。響ちゃんが連れてってくれないと、意味がないじゃん」


ね、とさえちゃんは優しく微笑んだ。


でも、おれは頷けなかった。


「監督さん、すみませんけど。響ちゃんを、送って行って貰えませんか」


「さえちゃん!」


さえちゃんに飛び付こうとしたおれを、監督が引き止めた。


「ええ。もちろん、そのつもりでここに来ましたから」


と監督は頷いた。


「うちの大事なエースですんでね」


病院の正面玄関前に乗り捨てて来た自転車を、監督のワゴン車に積んで病院を出たのは、深夜2時の事だった。


家に到着し、監督に礼を言うと、監督がおれの左肩をそっと撫でた。


「夏井。おれも、お前が必要だ」


「監督」


「今日、もし、マウンドに立つ気があるなら、朝8時までに来なさい」


おれは返事をしなかった。


でも、やっぱり、監督は怒らなかった。


「ただし、8時を過ぎたら、もうお前をマウンドには立たせない」


待ってるからな、そう言って、監督は車に乗り込んだ。


運転席のウインドウが開き、監督が最後に言った言葉に胸を打たれた。


「おれは、夏井の左腕と心中するつもりだ」


おやすみ、そう言って、監督のワゴン車は夜の闇に消えて行った。


家に入ると、もう父さんたちは寝てしまったようで、真っ暗だった。


階段を上がり部屋に入り、明かりを付けると、勉強机の上に2つのおむすびとお茶が置いてあった。


おむすびの皿の下に、置き手紙がある事に気付いた。



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