太陽が見てるから
「けん……ご……」


淡いまどろみの中で、おれは幼い頃と現実をふらふらとさ迷った。


夏の朝は、夜明けが早い。


明るくなり始めたのは、午前4時過ぎて、ハッとして目を開けた時、時計の針は7時を差していた。


「だり」


腫れぼったい目を擦りながらカーテンを開け、窓を全開に開け放ち、朝の空気を胸いっぱいになるまで吸い込んだ。


泣き疲れた体が、新鮮な空気に浄化されていった。


「いい天気だな」


南高のみんなは、もう学校を出発し、今頃は県立球場に到着している頃かもしれない。


南高校から県立球場まではバスで片道、約1時間だ。


今さら追い掛けるつもりはない。


向かったとしても、もう、投げれないと思う。


目が覚めても、やっぱり、おれの気持ちは中途半端なままだった。


野球がしたい、でも、翠が心配で気持ちがぐらぐらする。


集中力の糸は昨日から切れたまま、直りそうにもない。


キャプテンの岸野、マネージャーの花菜。


おれの可愛い後輩で、中堅手、勇気。


ナインと部のみんな。


監督。


そして、何よりもおれの1番大切な、親友。


健吾。


ごめん。


やっぱり、今のおれにマウンドに立つ資格はない。


青空を仰ぎ、野球魂に水をかけ消火し、それでも燃えようとする何かをグッと堪えて、おれは窓を閉めた。


ごめん、翠。


甲子園に連れてってやれねえや。


でも、その代わりに翠が目覚めた時、そばにいてやれる。


それで、許してくれるよな。


顔を洗って、着替えて、病院へ向かおう。


そう思って部屋を出ようとした時、携帯電話が激しく鳴り響いた。



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