太陽が見てるから
『じゃあ、来なくていいよ』


岸野の一言に、おれは面をくらった。


さすがに、ここまであっさりと「来なくてもいい」と言われるとは、思っていなかったからだ。


「ごめん」


おれが言うと、岸野は、「でもな、耳の穴かっぽじって聞いとけや」と言い、でかい声で「せーの!」と続けた。


携帯電話からこんなに大量の声が漏れたのは、初めてだった。


南高野球部、全員が声を揃えて叫んでいた。


『一緒に、甲子園行こうぜ、夏井ー!』


そして、電話は一方的に切れてしまった。


「ずりいよ」


熱い涙が頬を伝い落ち、フローリングの上にぽつぽつとシミを作った。


おれは撃沈した。


おれ、何やってんだろう。


バカだ。

アホだ。

ど阿呆だ。


みんなが一体となって叫んでくれた言葉を聞いた瞬間に、おれの体内から大量のアドレナリンが噴出した。


全てが、吹っ切れていた。


行きてえ。


やっぱ、野球がしてえ。


「野球がしてえっ!」


おれは握り締めていた携帯電話をベッドの上にぶん投げて、スウェットも脱ぎ捨てた。


左手に熱い熱い力が復活していた。


両足にソックスを通し、スライディングパンツを履き、アンダーシャツに体を通した。


伝統ある南高校のユニフォームを身にまとい、エナメル質の黒光りするベルトをきつく締める。


試合用の帽子を深く被り、おれはスポーツバッグを背負った。


窓辺に置いてある、翠とのツーショット写真を手に取り、決意を固める。


「行ってくる。約束、絶対、守る」


写真をそっと元の位置に戻し、おれは部屋を飛び出した。


階段を豪快にかけ降りて、リビングに飛び込んだ。


「父さん! 母さん!」


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