太陽が見てるから
ブルペンのマウンドに立つ本間先輩は、激しく凛々しい。

カッコいい。

そんな本間先輩の投球練習を見ると、おれは軽く落ち込んでしまう事が多々あった。

まだまだ、だ。

まだ、あのマウンドにはかなり遠い位置におれは居る。

正門を抜け、八重桜の木のトンネルを抜け、急勾配を下った。

ロードワークのコースは決まった道で、グラウンドに戻る頃にはちょうど1時間強の長い道のりだ。

ピッチャーとキャッチャーは夫婦同然。

心中も覚悟しろ。

監督の口癖だ。

毎日のように、口酸っぱく言われている。

30分ほど走ると広い河川敷きに出た。

北方向へ長く続いている川は、ずっと向こうに見える橋のもっと奥の日本海へ繋がっている。

この清らかな川辺りが、折り返し地点となっていた。

緩やかに流れる川辺りには、5メートル間隔で白いベンチが5つ並んでいる。

黄色。

いや、白か。

違う。

乳白色を帯びた金色だ。

夕方になりかけている時間帯の太陽の光が反射した水面は、かなり眩しい。

おれは目を細めた。

学校帰りの小学生達がランドセルを土手に放りっぱなしにして、キャッチボールをしていたり。

退職して暇をもて余しているのか、平日休みなのか。

本当のところは謎だが、大人の男が居眠りしながら釣りをしていたり。

のどかな光景が、河川敷きいっぱいに広がっていた。

この川は町の人々の憩いの場になっていて、南高校のボート部の練習にもよく使われている。

今日も数台のボートが威勢良く緩やかな流れの川を切り開くように、流れに逆らって登って行く。

「よし、戻るか」

と健吾は言い、汗だくになりながらも気持ち良さそうに息を切らしていた。

「おう」

西風に川の瑞々しい香りが入り交じって、額の汗に触れるとひんやりとした。

「あれっ! 夏井と健吾じゃんか」

折り返し走り出した時、聞き覚えのある声に呼び止められ、おれと健吾はほぼ同時に振り返った。

「よう、結衣。お前、こんなとこで1人で何やってんの?」

少し息を切らしながら疲れた声で、俺が訊いた。


< 30 / 443 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop