太陽が見てるから
同じポジションだからなのかもしれない。


少し、いや、かなり気持ちが分かる。


この右腕の投球に、前回までの威力がない。


確かに、走り具合も、回転も切れも、いい。


でも、違う。


2球目を、おれはフルスイングした。


軽い。


バットを振り切る。


カン。


その打球は、桜花エースの頭上を真っ直ぐ越え、大きな弧を描き、伸びた。


1塁に駆けながら、おれは打球を目で追った。


打球の先に、縦縞の背番号8がいて、無我夢中で背走していた。


修司の執念深さは、中学の頃より遥かに深くなっていた。


バックスタンドぎりぎり手前で打球に追い付いた修司が、トビウオのように跳ねた。


バックスタンドの壁に正面から衝突し、修司はグローブを高く突き上げた。


3塁ランナー遠藤が、タッチアップでホームイン。


おれは犠打で、アウト。


修司にやられた。


ちくしょう。


でも、おれは清々しくてたまらなかった。


修司があれをミスしていたら、おれも塁に残る事ができていたっていうのに。


おれはホッとして、ベンチに向かうのだ。


修司は、やっぱりすげえ中堅手だと、嬉しかった。


ワンアウト、残塁者なし。


打順は先頭に戻って、イガ。


ヘルメットを置いてグローブに切り替えていると、監督が話し掛けてきた。


「よく、遠藤を返した。よくやった」


「ありがとうございます」


「少し、エンジンかかるのが遅かったな。お前たちの野球」


「はい」


「何が起きるか、分からないものだな」


「ええ」


今日の監督は、わりと口数が多いことに今さら気付いた。


本当に、何が起きるか分からないものだ。


だから、野球がやめられない。


諦めない限り、試合はどう変化するかなんて、誰にも分からないものなのだ。


直球だと思ってフルスイングしたのに、それは欺き流れるスライダーのように。


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