太陽が見てるから
「タイム!」


主審の声が遠くに聞こえた時、ナインがマウンドに集まってきた。


「どうした、夏井」


岸野が汗だくの顔で、おれの背中を叩いた。


そのちょっとした衝撃だけでも、くらくらした。


おれは、立っている事が精一杯だった。


何でだ。


何で、この1番大事な時に、おれはふらふらしているのだろうか。


何で、左肩が萎縮しているんだろうか。


「響也……お前」


健吾の声に、たまらず顔を上げた。


「え?」


健吾は、悲痛な面持ちをしていた。


「お前、肩が痛いのか?」


灼熱のせいで、肩の痛みのせいで、目の前が朦朧としていた。


汗がじっとりと肌にまとわりつく。


不意に左肩を意識すると、小刻みに震えていた。


まるで、痙攣のように。


「どうする? 交代するか? そんなに震えるくらい痛いんじゃ」


そう言ったイガに、イガは甘えよ、大輝が口を挟む。


「苦しいのは、桜花も南も同じだろ。おれたちだけが苦しいんじゃねえよ。桜花も、同じだけ苦しいはずだ」


「夏井先輩」


心配そうな声で、勇気が背中を丸めた。


「でも、この状態で投げ続けたら、夏井先輩の肩がやばいですよ! なあ、大輝先輩」


おれの肩をかばうようにずいっと前に出た勇気を、岸野が片手で制御した。


「勇気」


そう言って、岸野は首を振り、おれに訊いた。


「夏井」


「うん」


「お前が判断しろ。おれたちはお前に従う。夏井についていく」


顔から、首から、背中を、濁流のように汗が流れた。


「投げたい。けど、腕が上がんねえ」




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