太陽が見てるから
野球は、おもしろい。


けど、それ以上に恐ろしい。


この一球が、このたったの一打で、先制、同点、逆転、再逆転劇。



9回裏、南高校は走者を出す事もできず、三者凡退に終わった。


試合はついに、延長戦へともつれこんだ。


カーチェイスをしているような気分だった。


灼熱のサーキットで、排気ガスを撒き散らすように。


灼熱のグラウンドで、砂ぼこりを巻き上げて。


試合開始から、すでに3時間が経過しようとしていた。


もう、肩の感覚がよく分からなくなっていた。


それでも、おれは、12イニングをほとんど気力で投げきった。


ナインにも、さすがに疲労が現れ始めていた。


それは、南高だけではなく、無論、桜花も同じだ。


苦しいのは、おれたちだけじゃない。


桜花も、同じ分だけ苦しんでいるのが分かった。


13回の裏。


その証拠に、桜花が最後の勝負をかけてきたのだ。


好リリーフだというのに、2番手投手をベンチに下げ、期待の次期エースの左腕投手をマウンドに上らせた。


今までが右腕だった分、左腕の変化球で南高校の打線を惑わせる気なのだろう。


桜花の監督は、いつも巧みな采配をしてくる。


感心している矢先、おれの横で監督が呟いた。


「2年生、か。さて、吉とでるか、凶とでるか」


監督は不思議な微笑みを浮かべながら、マウンドで投球する桜花の左腕を楽し気に見つめていた。


吉とでるか、凶とでるか。


おれはベンチに深く座りながら、試合の流れを見守った。


南高の先頭打者は2番の村上だ。


一球目。


切れのいい、おそらく直球が、桜花の捕手のミットに勢いよく食い込んだ。


しかし、その直後、何かが音を立てて崩れ始めていた。



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