太陽が見てるから
県内一、きつい練習を乗り越え、激闘の夏を駆け抜けた修司が、大粒の涙をボツボツとグラウンドに残した。


南高校はもう整列しているのに、桜花はなかなか整列できずにいた。


修司がグラウンドにへばりついて、離れなかったからだ。


その時、桜花のベンチから背の低い小柄な女がグラウンドに飛び込んできて、修司の元へ駆けて行った。


「修司! 私たち、負けたんだよ!」


グラウンドに這いつくばる修司の背中が、微かに動いた。


「最後くらい、桜花らしく散りなさいよ!」


そう叫んで、小柄な女は修司のでかい背中を抱き締めた。


あれは、桜花のマネージャーだ。


ふわふわショートヘアーで、都会的な今時の顔をしていた。


間も無く修司は自ら立ち上がり、ヘルメットを脇に抱えて、マネージャーの頭をポンと弾き、颯爽とした足取りで列に並んだ。


「ありがとうございました!」


礼を交わしたあと顔を上げた修司は、すっきりとした清々しい顔をしていた。


場内にアナウンスが流れる。


「勝利致しました、県立南高等学校の、校歌斉唱です」


ベンチ前に整列してバックスタンドを見つめながら歌い、おれは桜花のベンチにくぎづけだった。


さっきまで泣き崩れて這いつくばっていた修司を、笑顔で励ましていたナインたちが狂ったように泣いていた。


でも、修司はもう吹っ切れたような顔をして、電光掲示板の向こうの青空を見つめて、胸を張っていた。


桜花のマネージャーが、修司のそばに然り気無く寄り添って、泣いていた。


なぜ、修司があんなに執念深く泣き崩れていたのか。


それでいて、今は吹っ切れたような涼しい顔をしているのか。


おれは全く分かっていなかった。


まったく。



< 320 / 443 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop