太陽が見てるから
校歌斉唱を終えて、おれたちは1塁側スタンドに駆け出し、一例に並んで頭を下げた。


「ありがとうございました!」


その声は空高く昇り、青空の向こうにぐんぐん吸い込まれて行った。


ベンチに戻り、軽く肩ならしをし、アイシングをして、おれはダッグアウトを出た。


通路には地元スポーツ新聞社の記者たちが待ち構えていて、おれや監督に集まってきた。


「夏井くん、大本命と言われていた桜花に勝利した、今の気持ちを聞かせてください」


「中盤、肩を気にされていましたね。やはり、連日の完投が影響しているのですか?」


なんだ、これ。


今まで、南高校なんか見向きもしなかったくせに。


桜花に勝ったとたん、芸能人のスキャンダルみたいに扱いやがって。


左肩をアイシングしながら、おれは気分を害していた。


肩はひんやりして心地いいのに、心はぐつぐつと煮えたぎっていた。


「頑張ります」


ぶっきらぼうに一言だけ言って、おれはその場を立ち去った。


元々、話すのは苦手だし、感じが悪いとか生意気だととられても仕方がない。


それよりも、肩が痛くて熱くてそれどころじゃない。


通路をスタスタと突き進み、中央出入口に差し掛かろうとした時、そこに桜花のナインがおれたちを待っていた。


背番号、4。


桜花の主将が、口を開いた。


「頑張って! おれたちの分も頑張って、絶対、甲子園に行ってくれ」


桜花はプレーだけでなく、礼儀の正しさも紳士的なところも、県1の男前だ。


桜花の選手たちの笑顔は、負けたチームだとは思えないほど、爽やかで新鮮だった。


「頑張れよ!」


「甲子園行けよ」


「絶対、勝てよ」


1人1人と握手して抱き合い、桜花ナインは中央出入口から去って行った。


散り行く様も、いさぎよかった。


「響也」



< 321 / 443 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop