太陽が見てるから
アイシングしている肩を押さえながら振り向くと、そこには修司と桜花のマネージャーが立っていた。


「修司」


「おめでとうな。響也」


修司が左手を突きだした。


でかい手だ。


おれも左手で、その手をしっかりと握り返した。


「ありがとう」


「おれの無念、響也の肩に託したよ。真っ向勝負してくれて、さんきゅーな」


「ああ、うん」


勝手に涙が止めどなく溢れて、大雨のように流れた。


3時間半にも及んだ、激闘。



修司の涙。


仲間のすばらしさ。


野球の面白さ、怖さ、眩しさ。


何の前触れもなく反転劇を繰り返した、予想外のゲーム展開。


「勝ったくせに、泣くなよ。相変わらず、優しい男だよなあ」


修司のごつい手が、おれの胸をドンと小突く。


鼻の付け根奥が、つーんと痛む。


目の前がぐるぐる回って、目の奥が熱くなった。


勝利と敗北。


先制、同点、逆転。


野球の面白さと苦悩。


三振をとった時の、高揚感。


打たれた時の悔しさと惨めさ。


いろんな感情が、目の奥で燃えながらぐるぐる回っていた。


「決勝、勝てよ。お前が甲子園に行け。いいな! 約束だぞ」


「おう」


おれと修司は、もう一度、手を握りあった。


「まりこ。あれ、ちょうだい」


修司が言うと、桜花のマネージャーが白い紙袋を修司にわたした。


修司は紙袋からそれを取り出して、笑った。


「これ、うちのマネージャーが1人で折った、千羽鶴」


「1人で?」


「そ。だから、効果抜群だ」


「おれたちに?」


「ああ。桜花の夏、南高に託す」


そう言って、修司は、紙袋ごと千羽鶴をおれに渡した。


「ありがとう」


「すげえ興奮した。こんなに楽しい試合、初めてだった」


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