太陽が見てるから

誓いの夜

大喝采だった。


「決勝進出、おめでとう」


宿に戻ると、支配人と中居さんたちが拍手で迎えてくれた。


「すごい試合だったねえ。久しぶりに興奮させてもらいました」


おれたちは、全員でいっせいに頭を下げて、旅館が汚れてしまわないようにソックスを脱いで上がった。


「はいはいはい! これに入れて!」


玄関では、すでに洗濯かごを並べて、花菜が待っていた。


「着替えたらユニフォームも持ってきて」


「岸野」


監督に呼ばれ、その指示を岸野が部員たちに伝えた。


「ジャージに着替えたら、大広間に集合な。遅いけど昼飯と、あと、テレビ中継みろって。東ヶ丘と西工業の試合始まってるから」


以上、と岸野が言うと、各自素早く散らばる。


洗濯かごにソックスをぽいっと放って、おれも着替えに向かおうとした。


けれど、ハッとして立ち止まった。


昨日、相澤先輩と話し込んだ中庭の前で、おれは一瞬にして羽交い締めに合った。


夜と昼では、全く違う風景だったからだ。


夜、風情ただよう園庭ならば、昼のここは異国情緒ただよう洋館の花園だ。


真夏の陽射しをまんべんなく浴びながら、無数の花がびっしりと咲いていて、壁のようになっていた。


「すげ……」


昨日の夜は気付かなかった。


花を見て、絶句してしまうほど美しいと思ったのは初めてだった。


なんという花なのだろう。


太陽に向かって真っ直ぐ背を伸ばす、花。


その背筋も風格も、色も美しさも、翠みたいだと思った。


純日本人なのに、どこか西洋感がまざっていて。


呆けたように立ち尽くし、中庭を見つめていると、花菜がおれの背中をポンと押した。


「何ぼけっとしてんの?」


「え? ああ」


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