太陽が見てるから
それで、もう一度、甲子園を目指そうと思う。


翠を、もう一度、甲子園に連れてってやるよ。


だから、約束忘れないでいて欲しい。


翠と出逢ったのは偶然じゃなくて、運命でもなくて。


宿命だったんだって、証明してみせる。


生まれ変わったら、また恋に落ちる宿命を、この手で証明してみせる。


おれは、これからも毎年、夏を待ちわびるのだろう。


翠の幸せを、夏にかけるために。


あの日、夕焼け色のアルプススタンドで誓った約束を、おれは夏にかけ続ける。


だから、そこから見ていて欲しい。


彩雲の向こうから、いつも、おれだけを見ていて。


そして、来世にまた出逢ってくれないか。


その時は、またおれから気持ちを伝えようと思う。


好きです、とか、付き合って下さい、だとか。


そんなありふれた告白じゃなくて。


きみがびっくりしてひっくり返るような告白をしようと思う。


迷わずに、伝えようと思う。


「翠ってさあ、強烈な女だったよなあ」


クスクス笑いながら、健吾が石段を下り始めた。


「そうそう。初めて会った時はびっくりしてさあ! 聞いてくれよ、健吾」


楽しそうに話しながら、健吾の跡を修司が追い掛ける。


長い石段を2段下りたところで、おれは、もう一度振り向いた。


青空。


墓地公園の片隅に、咲き終わりを迎えたタチアオイ。


夏の風に揺れるタチアオイを見つめて、おれは問い掛けた。


誰にも聞こえないように。


翠にだけ聞こえるように、こっそり。


また今度。


出逢ったら、と心の中で言ってから、口に出した。


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