太陽が見てるから
夏井響也(なついきょうや)、15歳。

公立南高校1年。

野球部で補欠。

高校初めての暑い夏は甲子園球場に散った相澤先輩のスライダーと、悔し涙と一緒に、ほろ苦い色をした幕を下ろした。

兵庫県から地元に帰って来た日の夕暮れ時。

見馴れた練習グラウンドで、おれは茜色に染められたマウンドに誓った。

きみの笑顔を、あの夢球場へ持っていく。

必ず。

約束だ。










「なあ! なあなあ! 響也」

残暑が厳しい、9月。

昼下がりの陽光が、新学期を迎えたばかりの教室に燦々と射し込んでいる。

西側に並ぶ開け放たれた窓から、白い数本の線になって。

「うるさいな」

おれはあからさまにうざったい表情をして、たった今開いたばかりの新品のベースボールマガジンを、そっと閉じた。

昼休みを利用して読もうと楽しみにしていたのに、邪魔が入ってしまったからだ。

「何だよ、騒がしいな」

不機嫌な声で、おれは呟いた。

「そんな不機嫌な顔するなよ。いい知らせ持って来てやったのにな」

「いい知らせ?」

「今日な、相澤先輩が部活に顔出すらしい」

確かに、最高にいい知らせだ。

不機嫌だったはずの表情をころりと一変させ、おれは椅子から立ち上がった。

「それ、まじか?」

「まじだ! しかも、練習に参加するんだってさ」

弁当や飲み物の匂いが充満している教室で、俄然やる気が出たぜ、とおれの机に突進して来たのは、岩渕健吾(いわぶちけんご)だった。

180センチも身長があって、がたいも良く肩幅も広い。

目はくっきり二重ではっきりとした顔立ちをしている。

日本人にしては彫りの深い顔だ。

健吾はおれの大親友だ。

おれと健吾の歴史はけっこう長いと思う。

かれこれ、もう、6年の付き合いになる。

知り合ったのは小学4年生の時で、きっかけは町の少年野球クラブに入団した事だった。

お互いに阪神タイガースファンだった事から、意気投合した。

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