太陽が見てるから
ふうん、と花菜は頷いて、パイプ椅子にどっかりと座って携帯電話をいじっている翠に話し掛けた。

「学祭なのにメール? 翠ちゃんてば」

「おーう、花菜ちん! 暇でさあー、着うたとってたのさ」

「あ、あゆだあ! あたしもあゆの新曲ダウンロードしたよ」

チャラチャラと翠の携帯電話から溢れてくる浜崎あゆみの歌声が、おれをひどく落ち込ませた。

そのアーティストが嫌いなわけではないし、むしろ好きなのだけれど。

でも、無性に落ち込んだ。

刻んでいたキャベツからむんむんと立ち込める野菜独特の匂いが、さらにおれの気持ちを下げた。

このままじゃ、キャベツを嫌いになって食べれなくなるかもしれない。

なのに、翠は以前として明るい。

「花菜ちんもあゆ好きなんだよね?」

「うん、大すき」

「ヘーイ、あゆ友ー!」

「あゆ友? 翠ちゃんて、いろんな言葉作るよね! 面白ーい」

翠と花菜も、あの球技大会の翌日から、急激に仲良しになった。

今では自宅に遊びに行き交う仲にまで発展したらしい。

じゅうじゅうとお好み焼きが焼けるこうばしい匂いが、北西のから吹く風に流されていく。

風の行き先を目で追いかけると、人だかりの向こうに校門と薄着の八重桜の木が見えた。

八重桜の木から紅葉がかった葉っぱが1枚散り、2枚散り、焦茶色の葉がはらはら落ちていた。

その光景が枯れた桜の花びらが枚散るように見えて、木が滅入った。

「翠ちゃん。あたしね、今日あゆの写真集持ってきてるの」

と花菜は言い、さらに続けた。

「暇なら、うちらの教室で一緒に見ない?」

「行く行くー! 結衣、明里、花菜ちんの教室に夜這いに行ってくるね」

と翠が言うと、結衣と明里は笑顔で頷いた。

「オッケー! しっかり夜這いしてこいよ」

「ホームルームまでに戻りなよ」

「よし、じゃあ行こう」

おれのすぐ真後ろで花菜は翠を誘い、浜崎あゆみの大ファンだと言う翠は、しっぽを振って立ち上がった。

「補欠! しっかりキャベツ刻めよ」

翠が言い、おれの背中を叩いた。



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