太陽が見てるから
新人戦後、この時間まで練習に励む部は野球部くらいなもので、駐輪場はがらんとしていて寂しささえ感じられた。

「何、幽霊でも居たか? お前、霊感あったっけ?」

すっげえじゃん、なんて笑いとばしながら、おれは自転車の鍵をはずした。

「うん。幽霊かも……あれ」

「何が! おれ、まじで腹減った」

「本当だって! 見ろよ、あれ」

「幽霊でも何でもいいから、早く帰ろうぜ」

健吾の話を聞き流して、おれは自転車のかごにスポーツバッグを押し込み、自転車に飛び乗った。

幽霊なんかいるもんか。

ばかばかしい。

ペダルを軽く踏み込むと、カラカラとタイヤの軽快な音が暗闇の校庭に小さく木霊した。

「幽霊……だよな。いや、違うな。いや……白い幽霊だな。でも……」

と健吾はぶつぶつ言いながら、まだ駐輪場の前に立ち尽くして、腕を組んで教室が立ち並ぶ窓辺を見上げていた。

ぶつぶつ、念仏でも唱えているかのように。

「アホか。幽霊なんか居ねえよ」

江戸時代じゃあるまいし、と健吾を馬鹿にしながらも校舎を見上げ、

「……幽霊だな」

とおれも固まった。

「な、だろ? じゃあ、あれは田舎っぺ幽霊だな」

と言い、健吾が指さしたのは校舎の3階のとある教室の窓辺だった。

もう夜の7時をとうに過ぎている。

生徒も先生も居ないはずだ。

居るとすれば当直の先生だろうし、当直の先生だって当直室に居るはずだ。

さらさらと音がした。

駐輪場の脇の、ハナミズキの木の葉が夜風に揺れている。

3階の真っ暗な教室の窓は、すべて閉まっている。

なのに、一ヶ所だけ窓が開け放たれていて、白いカーテンが窓から飛び出しパタパタと揺れているのだった。

不気味だった。

しかし、どんなに目を凝らして見ても人影は無く、真っ暗だ。

「響也、あれ、まじで幽霊だったらどうしよう」

健吾はでかい図体をしているくせに、怖がりだったりする。

ヒイヒイ言いながら、自転車に股がるおれの背後に隠れた。


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