太陽が見てるから
「球技大会の前日の放課後、響也達のクラスに涼子さんが行ったらしいのよ」

「は?」

「夏井くん居ますかー、って」

「あ、そうなの? 涼子さんが?」

何で? 、とおれが問うと花菜は呆れ顔をして、また続けた。

あの、窓際後ろから2番目と3番目のある窓辺を、優しい目で見つめながら。

後ろで健吾がうるさかったけど、花菜の声は素直におれの耳にすんなりと入ってきた。

「涼子さんね、たまたま近くに居た翠ちゃんに訊いたらしくてさ。響也に彼女居るのかって」

「はあ、翠に?」

「翠ちゃんとひと悶着あったらしいのよ。それで、翠ちゃんは危機を感じて野球に変更したってわけ。女の勘てやつね」

「危機、ね……何で?」

とおれが訊き、花菜はおれの背中にチョップをお見舞いした。

「馬鹿じゃないの? 響也って、本当に野球しか頭にないわけ?」

信じられない、と花菜は溜息混じりの声で荒げ、お手上げポーズをした。

「何! 未来の大切な投手に乱暴するマネージャーなんて、初めて聞いたぜ」

「何で分からないの? 普通さあ、彼女居るのか訊かれたらピンと来るでしょ」

「えー……」

「翠ちゃんは、響也に誰も近付けさせたくないの! 分かる? もう、いいから行け! 健吾はあたしと健が預かる」

「何言って……」

花菜はおれを睨み付けて、勢い良く3階のあの窓を指差した。

「翠ちゃんと響也は両想いなんだよ!」

と花菜は言い、おれを自転車から引きずり降ろした。

固いアスファルトに足を着いた瞬間、おれはもう、いてもたってもいられなくなった。

あれは、翠に違いない。

翠に惚れてるおれが、間違うはずない。

夜の暗い教室に、翠は居る。

「花菜、ありがとな! ごめん」

「いいから、早く行って」

ローファーの底でアスファルトを思いっきり蹴り、おれは走り出した。

あの、窓際後ろから2番目と3番目を見つめながら。

濃い群青色の夜空に、北斗七星が輝いていた。




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