太陽が見てるから
「てか、あんたは知らないと思うけど。あたし、ずっと好きだったんだから! 響也」

響也。

翠がおれの名前を口にしたのは、出逢ってからこれで二度目だった。

「あんたねえ! けっこうモテるんだから! 大変だったんだからあー!」

翠が狂ったようにわんわん苦しそうに泣くせいだ。

翠のせいだ。

一生分の幸せを使い果たしてしまったような気がして、翠のことが愛しくて仕方なくて、ついもらい泣きをしてしまった。

「何で補欠が泣いてんのよ」

「知らん……なんか泣ける」

「泣きたいのはあたしじゃ! ボケ! ぎゃあああー」

2人で狂ったようにわんわん泣いてほとぼりが冷めた時、今度は頭の線がプツリと切れたかのように大爆笑した。

月明かりが燦々と射し込む窓際の床で、2人目を赤くして笑い続けた。

「ちょっと、男のくせに泣くなよ! ださっ」

と翠は言い、右手でおれの左頬をぎゅうっとつねった。

「泣いてねえ! 普段気が強いくせに、女みたいに泣いてんじゃねえよ。ハナタレ」

とおれは言い返し、左手で翠の右頬を軽くつねりながら引っ張った。

「あたしはれっきとしたかよわい女じゃ」

ぎらぎら輝く翠の金髪越しに、どっぷり深い漆黒の夜空が広がっていた。

射し込む優しい月光に、おれは目を細めた。

翠は泣き過ぎたのが祟ったのか、ほとんど化粧がはげて素っぴんに近い顔になっていた。

翠の右頬を伝う涙を親指でそっとすくい、おれはクスクス笑った。

「翠、お前さ、化粧しない方が可愛いかも」

「はっ? まじでぶっ殺されたいわけ?」

仏頂面の翠は腫れぼったいどんぐり眼をギンギンに見開いて、鼻息を荒くした。

「ぷ……やっぱ不細工かも」

「はあーっ? この美しい顔のどこが不細工か言ってみな! え、コラ」

翠はどでかい声で怒鳴って、おれの坊主頭を力ずくでぶん殴った。

おれはその2発目を瞬時に掴み取り、反撃に出た。

一生分の勇気を使い果たしたような気分だった。

明明と浮き彫りにされた夜の教室。

乱れた机と椅子の隙間に射し込む、月光に照らされた2つのシルエット。

「隙あり!」

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