太陽が見てるから
―あの人は、あんたと同じサウスポーだったんだぞ―



「おっしゃ。うでがなるぜ! こんちきしょう」

涙さながらだったけど。

たぶん、この世で1番情けない気合いだったけれど。

おれはペダルを踏みながら、左腕をぶんぶん振り回した。

風が冷たくなってきた。

もうじき、秋の時雨続きの日々が、この海辺の街に訪れるだろう。

時雨があがったら、つめたい初雪がこの街並みを純白色に染めるんだろう。

雪が溶けてふきのとうが顔を出す頃、おれは今よりもっとでかい男になれているんだろうか。

死ぬ気で練習に明け暮れてやる。

夏になったら、相澤先輩や本間先輩を追い越すくらいの左腕になってやる。

絶対だ。

翠の全部を完璧に受け止めてやれるくらいの男になって、マウンドのてっぺんで大きく振りかぶってやる。

この夜空で、どの星よりも一等に煌めいているあのポラリス。

翠の親父さんだったらいいな。

おれが、翠を甲子園に連れていきます。





おれは、明日も太陽の向こうを目指す。






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