太陽が見てるから
二章:涙空

ハードル

心底惚れ込んでいたスライダー野郎が、このグラウンドものとも学舎を去った。

相澤隼人に、相澤先輩の左腕に地獄の果てまで惚れていた。

相澤先輩は東京の大学に進学し、その春、おれは高校2年生になった。

以前、こんな補欠のおれに告白してくれた涼子さんは神奈川の大学へ進学した。

翠と付き合った翌日、おれは失礼ながらもその気持ちにメールで返事をした。

返ってきた最後のメールには、涼子さんらしい優しい気持ちが綴られていた。




DATE 10/26 10:23
From 岩瀬涼子
Sub ありがとう
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
きちんと返事をくれて、ありがとう。
そうだと思っていました。

私はあの子には勝てない運命だったのね。
どうか、幸せになって。

甲子園球場で夏井くんが背番号1をつけて投げる日を、楽しみにしています。


涼子









短すぎた春休みは部活一色で、翠はぶーたれてばかりいたけど。

急勾配をひた上り、正門前の桜並木が淡いピンク色のトンネルになった。

おれは背番号10を貰った。

年功序列、か。

いや、やはり実力がものをいう世界に、おれ達はいる。

やっぱり、背番号1を授かったのは本間先輩だった。

練習一色の春休みも明日で終わり、新学期が始まる。

こんな補欠エースにも「先輩」という立場が巡ってくるのだ。

監督が、明日は急な会議が入った、と言うので明日は練習が休みになった。

家に帰り、その事を翠に伝えた。

おれは、会いたい、なんて一切口にしていないのに。

『あたしに会いたいのか! そっかそっか。仕方ないから明日はあけといてやるよ』

と翠は一方的に約束を取り付けてきた。

とても嬉しそうで、ひどく楽しそうな明るい声だった。

「じゃあ、明日10時に。駅前で待ち合わせな」

とおれが言うと、翠は鼻息を荒くして、ぶっ殺されたいの? 、と言ってきた。

翠の怒鳴り声はおれの左耳から鋭く貫通し、部屋の中に漏れた。

キィン、と超音波のような音が耳を貫いた時、おれはたまらず目を閉じて笑った。

「翠、声がでかい」


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