初恋
宮本健人23歳。フリーター。
新宿のバーでバーテンをやっている。
一応大学は出たが、就活が面倒で、大学の時のバイトをそのまま続けている。
顔もまあまあ良くて、女性に対しての扱いが上手いので、健人目当ての客も良く来る。
大学の頃からの彼女はいるが、彼女は就職してすれ違いが多くなっていた。
今日の現場を見られていたら確実に別れを告げられるだろう。
この時間帯の電車は空いていた。
何故か今日は座る気がしなく、健人は出入り口で立って外の景色を見ていた。
すると、向かい側に電車が並走してきた。
同じ様に窓側に立っていた人物を見て、健人は持っていたバックを落とした。
心臓が高鳴る。
並走した何分、何秒かもしれないが、息をするのを忘れていた。
その後もしばらく健人は窓を見つめていた。
――聖美…
あれは間違いなく聖美だった。
我に返ったのは、終点駅に着いてからだった。