初恋
その日の朝早くに、健人は聖美の部屋の窓から誰にも気付かれない様に降りていった。
「また、連絡する」
「うん、またね」
聖美は手を降って健人を窓から見送った。
健人は天にも昇りたい気分で帰ろうとした。
「宮本君」
後ろから誰かに呼ばれた。
「はい」
振り向くと、男性が厳しい顔で、健人を見ていた。
「どなたですか」
「聖美の父親だよ」
「…え?」
健人は絶句した。
「―あ、あのこれは…いや、一目、彼女に会いたくて」
「言い訳は結構。何もかも分かっているんだ」
健人は何も言えなかった。
殴られるのなら仕方ない。そう思っていたが、
父親はひざをついて、健人に頭を下げた。
「お願いだ、もう娘に会わないでやってくれ」
「…え?」
「頼む、娘の為なんだ!もう会わないでやってくれ」
彼は泣きそうになる程に健人に懇願した。
健人はわけがわからなかった。
高校生の娘の体を奪ったという父親の怒りではない全く違う雰囲気だった。
「あ…あの…頭を上げて下さい」
「あの子に頼まれて無理させてきたけど、もう限界なんだ…」
彼はまだ頭を下げていた。
「あ、あのどういう意味ですか」
「…何も、聞いていないのか」
「―あの…?全く意味が…」
父親は黙ってしまった。
「悪いが、ここにもいられなくなる」
「え?嘘ですよね。そんなの、聞いてないです」
父親は一言、
「すまない…」
と言い残して、
家に戻って行った。