ちょっと短いお話集
 私はドライアイスを取り出してくると、彼女の頭の周りに敷き詰める。
 これで取りあえずは、脳細胞の死滅を食い止められるだろう。たとえ活動していない脳だとしてもだ。
 次に取り掛かったのは、ガンで駄目になってしまった臓器を取り替えることだ。
 たとえ、心臓と脳を蘇らせた所で、何か一つでも欠けてしまったら生命は蘇らない。
 幸いここでは材料は事欠かない。
 ついさっきも交通事故で頭を打った若い女性の死体が運び込まれてきたばかりだ。
 私は、心臓、肝臓、胃、彼女の臓器の中で悪く見えるだろう所は全て完全に取り替えた。 これで良い。
 その後、私は大学病院から盗んできた、白い人工血液を彼女の体の中に巡らせると、心臓の上に蘇生装置をセットする。
 あとは、彼女の生命をつかさどっている脳の中心、脳管をノックしてやるだけだ。
 私は、この作業に今生きている脳、つまり私の脳と小さなコンピューターチップを使う事にした。
 私の脳波を機械で増幅して、彼女の脳に送り込むのだ。
 その脳波は、コンピューターチップに記憶され、彼女の死滅した脳細胞を補って、活動を再開させるに違いない。
 私は自分の頭にコードを複雑に付ける作業を行いながら、彼女が蘇ったら何を聞き、そして何をしようかと思いを巡らせていた。
 当然彼女は蘇らせてくれた私を神のように崇拝し、そして私の満足するように行動してくれるだろう。
 ああ、それでも私はあえて彼女の弱みに付け込むようなことはしまい。
 私はそんな下劣な行動をとるにはあまりに気高いのだから。
 そうだ、私を見て、ひざまずくであろう彼女の手をとって、こう聞くとしよう。
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