ちょっと短いお話集
幸せな話(ある作家の独り言)
 いや我々作家と言うものは因果な商売でしてね。常に妄想を逞しくしてなくてはいけないのですよ。

 道路に軍手が落ちていれば、あれは本当は切り落とされた手首が入っていたらどうしようとか。
 もっと硬いフランスパンがあれば人も殺せるだろうとか。

 ほとんど四六時中妄想に取りつかれているといっても過言じゃありません。

 それでつい先日も、人気のラーメンなるものを食べに行ったのですが。
 ここがまた、ほんとにすごい行列でして、わたしそれでつい、いつもの癖で妄想してしまったわけですよ。

 もし、ここの味の秘密が研鑽と努力の結果ではなくて、麻薬と言う禁断の香辛料がもたらす物だったらどうしようかと。

 いや、そう考えるとどうでしょう、どこと無く並んでいる人たちの目もどこか虚ろじゃあ、ありませんか。

 こうなるともういけない、元来持っている好奇心も手伝って、ここの店長さんに聞いてしまったのでございます。
「あのー、ここの味の秘密はなんでしょうか」
 するとどうでしょう、ここの店主、真っ赤になって怒り出すじゃあありませんか。
「ばかやろう、店の命をたやすくおめえみていな奴に教えられるかい」とね。

 私、それを聞いて、ああやっぱりと思ったものですよ。
 このお店は危ない薬で客を寄せているんだとね。
 それで、わたし、急いで家に帰ると、
 警察に連絡するか、それともマスコミに報告すべきかと、頭を抱えた挙句。
 とりあえず気分直しに自分の麻薬をやったのでございます。
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