ちょっと短いお話集
冷たいお話
 いやー、最近暑くなってきましたね。

 暑くなっていたと言えばそう、最近のカップル、熱苦しいったら、ありゃあしない。
 少し前もね、公衆の面前で抱き合っているカップルがいたからつい言ってやったんですよ。
「お前さんがた、すいませんがね、お熱いのは結構ですけれど、もう少し離れてもらえませんか、見ているこっちがおかしくなっちまう」ってね。
 そしたら抱き合っている男の方が女をアゴで示して言うじゃありませんか。

「いや、熱そうに見えるでしょうけれど、実はこれ、僕専用のクーラーなんですよ」とね。

 確かに良く見てみると、女のほうは生気が無いし、男も青白い顔をしている。
 それでわたくし、こりゃあ良いなと思いましたよ、最近は見栄っ張りの為にそんな良いものが売っているのかとね。

 それで、わたくし、すぐさま電気屋に行くと素敵な女の子型のクーラーをくださいと言いましたよ、そしたら電気屋、笑いながら言うじゃあありませんか。
「あんた、何寝ぼけてるんだい、そんなものはどこ行っても売っていないよ」とね。

 それで私、取って返すとそのカップルを見つけて言ってやりました。
「おい、おい、さっきのはぜんぶ嘘だったのかい、おいら、えらい恥を掻いてしまったじゃあねえか」
 そしたらその男、更に青白い顔をして。
「いやね旦那、この女、いつも懐にナイフを持ってやがるんですよ、少しでも浮気を心を持とうものなら、こいつに刺されるんじゃないかと、ずーっと、冷や冷や物なんですよ」と、言ったのです。

 まったく、やっていられませんな。
 そいじゃ、わたくしはこれで。
 えっ、なんですって。お前さんの態度があまりに冷たいと。
 ええ、そりゃそうですよ、こう見えてもわたくし、冷たい男ですからね。
 みなさま、どうか、熱くなられませんように。
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