ちょっと短いお話集
 怖くてたまらない。
 そう感じたとき、俺は自分の唇がつりあがるのを感じた。
 冗談じゃない、精神が体を支配するのだ、その逆を許してどうする。
 だが、そう思っても怖いものは怖い足が一歩も動かない。どうすればいい、俺は思わず上を見上げた。

 青くて美しい空、ずいぶん上空を鳥が飛んでいるのが見える。
 鳥はなぜ怖くないのだろう、飛べるからか?
 その瞬間、俺は解決法を見出した。
 そうか、下を見るから怖いのだ、空を飛ぶつもりで上を見て飛べば怖くはないだろう。

 それに死んだら、天に上るというしな、行き先を見据えながら飛ぶというのも悪くない。
 俺は、それを思いつくや否や、空を見上げつつ、マンションの屋上から何も無い空間に一歩を踏み出した。
 あるはずの地面を求めて、思わず自分の足が反応する。
 だが、そこに地面があるはずも無く、俺の体はマンションの屋上から、地上に向ってのダイブを開始する事となった。

 耳元で風がうなり声を上げ、俺の体が引力の法則にしたがって加速をつけながら、地球に向って落ちていく。
 最初に地面に付いたのは、足か頭かは良く分からない、たぶん同時だろう。
 とにかくゴンっと鈍い音を発して、俺の体は硬いアスファルトに叩きつけられたのだ。
 痛みよりも速くそれを感じる意識そのものが遠のいていく。

 これで、全て終わりだ。
< 30 / 70 >

この作品をシェア

pagetop