ちょっと短いお話集
良いカモだよね
 最近、褒めて育てるというのが流行っている。
 勿論人間に対してもそうだけれど、動物とか、それこそ植物を育てる時も褒めると良いらしい。

 そこで、おいらもやってみることにした。うちの近くに居た水鳥にである。

「なあ、あんた、本当に良いカモだよね」ってね。
 
・・・・・・・えっ、褒めているような感じがしない?
 ああ、まあそりゃあ、そうだね。

 そんなことをニヤニヤしながら考えていたら、驚いたことに一羽の大きな白いカモが、返事をしてきた。

「そうだろ、そうだろう、俺は良いカモだろう、だからさ、なあ、あんた、少し食い物をくれねえかな」

 うおっ、しゃべれるのか、まあ、オウムとかも喋れるし、まあ良いだろう。
 おいらはそこは深く考えなかった。

 それにしても、こいつ、かわいそうに、 “良いカモ”の意味がわかっていないみたいだな。
 まあ鳥だし、喋れるといっても、知性はそれほどではないのだろう。

「なあ、餌をくれるのか、くれないのか」
 カモはさらにせかしてくる。
 まあ、こんな珍しいカモだ、餌くらいやっても良いだろう。
 おいらはそう思って、その日から毎日餌をあげることにした。

「おーい、おーい、カモ、今日の餌だぞ」
「ああ、ありがと」
「それにしても、おまえは本当に良いカモだよな」
 ニタニタと笑いながら言う、おいらも性質が悪い。
「まあな、俺は本当に良いカモだろう、だから明日も頼むぜ」
「ああ、任せろ」
 おいらは、こうやって、毎日、水辺の大きな鳥に餌をやっているのである。

・・・・・・ある水辺の鳥の会話。

「それにしても、あいつ本当に良いカモだな、毎日餌をくれるとは」

「ええ、本当はあいつの方が良いカモだってわかったら、あの人間、どう思うのかねぇ」

「まあ、そこは黙っていたほうが、良いだろうな、しかしあいつ、まだ気が付かないのかねー、俺が本当はサギだって言うことをさ」
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