ちょっと短いお話集
「そんな事言っていないだろう」

 確かに今回のリレーの選考でサトシが選ばれ、僕は落ちてしまったが、今はそんな事は言っていない。
「それじゃ何だ、内村のおばさんがいなくなったのが俺のランドセルのせいだって、そんな嘘。誰が信じるんだよ、いちゃもん付けるのなら、もっとまともなのを考えたらどうなんだ」

 そう言ってサトシがぼくの胸倉をつかもうとしたとき、そのサトシの頭を何かがガシリとつかんだ。

「んっ」
 サトシがそう言って、眼をうえに動かした。
 ぼくが見たのはここまでだった。
 次の瞬間、サトシはランドセルの中に吸い込まれてしまったんだ。

「うわああああ、さ、サトシ」
 サトシを助けないと。
 僕は震える足を無理やり押さえつけながらも、何とかランドセルのもとに向かい、ふたを開けた。

 だけど、何もない、さっきと同じように教科書しか入っていない。
 いない、サトシはいない。
 吸い込まれる瞬間に口が大きく膨らんだけれど、今、確認しても普通の革で出来ていて、広がるような素材じゃない。

 そこまで確かめた時、僕はあることに気がついた。

 今度ここから青い手が出てきたら次は僕の番じゃないのか。
 も、もうだめだ。これ以上ここにはいられない。
 
 僕は即座に立ち上がると、サトシのランドセルを空き地に置いたまま家に向かって走り出してしまった。
 情けないって笑いたかったら笑え、僕はこの時あの恐怖にはとても耐えられなかったんだ。
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