ちょっと短いお話集
「もし」
 一時間ぐらい歩いた頃だろうか、いきなり声を掛けられて僕は立ち止まった。
「僕ですか、なんでしょう」
 占い師だ。怪しげなおばさんが派手な衣装を着て、水晶玉の前に座っている。

「そうだよ、あんただよ、あんた、取り憑かれているよ」
「取り憑かれているですって?」

「ああ、そうだよ、いにしえの文明を持ち、我々の知らない技を持っていた民族の人にさ」
「本当ですか?」

 眉唾な話しだ。
「おや、疑うのかい、ならあんた、そこの博物館に行ってみな、嫌でも分かるはずだよ」
 博物館、国立博物館のことだよな。
「わかりました」
「分かったら戻って来ると良い、私が何とかしてやるから」

 僕は疑いながらも、国立博物館に向かった。
 まあ騙されているんだとしても、どうせ暇なんだ、博物館に行くくらいなんともない。
 チケットを買い、荘厳に聳え立つ美しい建物に入る。

 そこに彼女がいた。

 ミイラだ。
 ガラスケース越しにミイラを見た瞬間、僕にはわかった。

 彼女だ、これは、あの夢の彼女だ。
 夢とはまるで違う、醜く干からびた肌と落ち窪んだ眼窩に成ってしまっているが、間違い無い。

「あいたかった」
 僕は余りの切なさに、思わず呟いていた。

 人が見たらこれは単なる醜いミイラなのかもしれない、だけれど僕には違っていた。

 醜いミイラの姿に重なって、美しい女性の姿が見える。

 ああ、なぜ僕は四千年前に生まれなかったのだろう、そうすれば、彼女の手を握れたのに。
 なぜ僕はあと四千年後に生まれなかったのだろう、そうすればタイムマシンに乗って彼女の声を 聞きに行ったのに。
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