ちょっと短いお話集
 小さなおばさんが、やたらと大きく見える。

「喝!」
 いきなり、おばさんが大きな声で言った。その声で、小さなアパートの部屋が膨れ上がったようにさえ感じられた。

「な、なにを」
 僕はたじたじになりながら言う。

「こっちはね、もはや、あんたと問答する気は無いんだよ、とにかく、あの女を祓っちまうからね」

 そう言うが否や、おばさんは、ブツブツとおかしなお経を唱え始めた。

「やめろ、やめろ」
 頭が割れそうに痛い、それと同時に脳裏にエスタの美しい姿が現れて苦しみに苦悶し始めた。

“さ、さとし、助けて、助けて“
 その声と同時に彼女の美しい姿に今のミイラが重なったり、ぼやけたりする。

「ええい、後もう少しだよ……」
「くそ、やめろ、やめろと言っているんだ」

 僕はそう言って、ババアに飛び掛ろうとした。

「美恵子抑えておき」
 おばさんの命令を聞いて、美恵子が僕の体を抑えつける。余りにも痩せていた僕には美恵子の力さえ跳ね除けられない。
 くそ、重いこのデブめ。

「やめろー」
 暴れている僕の脳裏から、ついに美しいエスタの姿が消えて、醜いミイラに変わってしまった。

 かさり、かさりと音を立てそうだ。
 ああ、なんて醜い。
“さとし“
 醜いミイラのしわがれた口が動き、僕の名前を呼ぶ。
 僕は余りの醜さに思わず目をそらしてしまった。
“さとし……あい、し、て、いる”

 その声を最後に、彼女の姿は脳裏から消えてしまった。

「どうだい、目は覚めたかい」
 美恵子の下でもがいている僕に、おばさんが声を掛けてくる。
「ああ、醒めたよ、だからどいてくれ」
 美恵子が僕の冷静な声を聞いて、上からどいた。

「聡司……」
 心配そうに、美恵子が僕に声を掛ける。
「美恵子、美恵子か」
 そう言って僕は彼女を抱きしめた。
 彼女のどこら辺が太っているというのか、美しい、出会った頃と何も変わっていないじゃないか
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