ちょっと短いお話集
いつもより少し軽いような気がする。通常弾頭じゃないからだろうか。


「頼むぞ」


 そう言って軍曹は、他の迫撃砲班の方に歩いていってしまった。


「さて、始めるとするか」


 トニーが砲弾を受け取った箱から出しながら、いつものように機械的に言った。


「ああ」


 分かっている、これから僕たちは人を殺すのだ。


 僕はいつものように人殺しの手順を始めた。新兵器だろうがなんだろうが、やることは何も変わらない。


 僕は、トニーから砲弾を受け取る。


 もちろん、こいつが人殺しだという事くらい百も承知だ。


 だが、今の僕たちにとっては、それですら単なる作業に過ぎなかった。


 ミサイル工場に勤める善良な市民のように、機械的とも呼べる正確さでいつもの手順をこなしていく。


 僕は一旦砲弾を、迫撃砲の筒の上に手で保持をして、トニーの指示を待つ。


 トニーが周囲を確認し、オーケーのサインが出る。


 僕は手を離して一気にしゃがみ込んだ。


 僕の手を離れた砲弾が筒の中をすべり、底に待ち受けている雷針が、砲弾の信管を突付くのを感じられた。


 筒の中で爆発音がした。間抜けともいえるようなポンという音と共に、砲弾が筒から飛び出す。

 どうせいつもと変わらない惨劇がこれから始まるのだろう。


 
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