ちょっと短いお話集
僕は弧を描いて飛んでいく砲弾を、呆然と見ながら考えていた。


 通常の場合、敵の陣地めがけて弧を描いた砲弾は、地面に着地すると同時に破裂をする。


 その時、この砲弾を構成する鉄の破片が二十メートル四方に飛び散り、当たり前のように人の体を貫いて死をもたらしていく。


 だが、この新兵器の場合はもっと酷い事になるかもしれない。


 もしも、こいつに詰っているのがVXガスなら最悪だ。


 そのガスは、吸い込まなくても肌に触れただけでその体を溶かしていく。


 さらには悲鳴すら上げられず、痙攣を起こしながら転がりまわる人々の肺に進入し、その体を内からも破壊していく。


 その破壊力はたった四リットルで、三十六万人を死亡させる。


 阿鼻叫喚の地獄がここに現出することになるのだ。

 僕の脳裏には、体を溶かしながら泣き喚く、人々の姿さえ浮かんだ。


 それでも、僕の心は少しも動かない。だってそうだろう、君達だって、自分の食べている肉にいちいち、悲しみを覚えたりはしないはずだ。


 イツモト、オナジヨウニ、ヤルダケサ。


 奴等の頭上に弾が到達した。


 そして、ついに噂の新兵器が破裂した。


 これから、残酷な劇が始まる。


 僕は目をそらさずに、効果を確認した。


 その効果を見た瞬間、僕とトニーはなんと笑い出してしまった。


「あっははははははははは、トミー、こいつは最高だぜ」


 トミーも僕も腹を抱えて笑い続けている。狂ってしまったかのようだ。


「ああ、エディ。もっとだ、もっと撃とうぜ、こいつはすげえ」


 トミーが喜んで、僕に砲弾を渡す。


「おお」


 僕は砲弾を持って、迫撃砲に一歩踏み出した。
< 58 / 70 >

この作品をシェア

pagetop