ちょっと短いお話集
 その瞬間だった。


 狂気の笑いの隙間を縫って、敵の迫撃砲弾が、僕たちの真上に迫ってきた。


 僕の眼が、一瞬のそれを捉えた。


 死んじまう。


 笑いすぎていて気が付かなかったんだ。何てうかつだろう。


 死にたくないとか。家族の事が脳裏に浮かぶとか、人生が走馬灯のように巡るとか。


 ぜんぶ嘘だ。そんな時間なんてありはしない。


 砲弾が破裂した。


 僕の視界が、真っ白に染まる。



 ……僕は閉じていた目をゆっくりと開けた。


 どうやら、死んでいないようだ。


 でも、視界は真っ白のままだ。


 どうやら、敵も新兵器を持っていて、それを使ったようだった。


 僕は、体に覆いかぶさっている、白い布をゆっくりと取った。


 そう、新兵器の正体は、単なる白い布が詰った砲弾だったのだ。


 お互いの降伏を示す白い布。


 思いやりと優しさの純粋な色。


 そして、その効果は核よりも、生物、化学兵器よりも、遥かにすばらしかった。


 僕とトニーは、白い布を抱きしめて笑いあい。


 敵とこれまで呼ばれていた、同胞達も銃を投げ出して、走りよってきた。



 そう、確かに新兵器は戦争を終わらす威力があったのだ。



「おいお前ら、停戦だ。国連が入ってきて、今日から食料を配り始めるそうだ」


 班長が笑いながらそう言っていると、上空を飛んでいた飛行機から食料が入っていると思われるコンテナーが、パラシュートを開きながらいくつも落ちてきた。


 その間も、あちこちで、笑い声が上がっていく。


 鉄塊よりも、白い布が。


 殺意よりも思いやりが、


 この戦場に広がっていった。


 僕はそれを感じながらも、ずっと、ずっと大笑いをしていた。


 きっとこれから、新しい世界が始まる。
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