ちょっと短いお話集
 ねえみんな、考えても見て、最初に、吸血鬼になった時にさ、こうなる事は予想しなくちゃいけなかったんじゃないのかな。
 なにしろ、僕らは死なないんだし、それに、食事をするだけで、同じ奴が増えちまうんだ。

 やってらんないよね。

 少し考えれば分かるはずじゃない、世の中が吸血鬼だらけになっちまうって事はさ。

 この前もさ、美しい、もう、見るからに処女だという黒い髪の少女がいてさ、当然付けたわけよ、吸血鬼としてはさ、もちろんだよね。君もそう思うだろ。

 僕は黒いインバネスをバサリと一回転させて、コウモリになると、彼女のいる二階建ての大きな白い屋敷に入り込んだわけだ。

 バルコニーにヒラリと降り立って言ってやったよ。いつもドラキュラのビデオで見ているようにさ。

「素敵なお嬢さん、あなたは、幸運にも気高き一族である、吸血鬼の一員になる栄誉を手に入れることになりましたよ」ってさ。
 僕としては当然、ここで期待したのよ、きゃあああああって、彼女が甘美な悲鳴を上げてくれるのをさ。
 僕はそれを聞きながら、彼女の白い首筋に、我が犬歯を突きたてたって、そうこなくちゃおかしいよね。

 ところが彼女と来たらさ。

「あら、失礼ですけど、私ももうすでに、吸血鬼ですよ」
 だって。

 人間達は、ここで、共食いすれば良いじゃんなんて、軽く言っちゃうのかもしれないよ。
 でも、勘弁してくれよ、それはさ、人に向かっておなかが減ったら人間食えばって、言うのと同じだよ。
 人間は野蛮だから、そんな事簡単に出来るのかもしれないけれどさ、僕たち貴族なんだよね、そんな野蛮な事出来るわけないし。
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